大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)59号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について判断する。

(一) 引用例の認定の誤りについて

成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例は、「眼球表面の曲率の測定装置に関するものであつて」(同号証第一頁左欄第一二行、第一三行)、その目的は、「眼球表面の曲率を比較的簡単な装置によつて、高い精度をもつて測定し、かつ記録保存する」(同欄第一三行ないし第一五行)ことにあり、乱視を有する眼球表面を測定する場合、別紙図面(二)に示す「A群、B群、C群の標点群を使用するならば、眼球表面の子午及び球欠面内において、それぞれ三点ずつすなわち三種の輪帯について、その曲率を知ることができる。標点群を増加することによつて、更に多くの輪帯について曲率を求めることもできる。……標点を光軸を含んで、子午面と球欠面にそれぞれ45°の方向をなす平面内に配置することによつて、それらの方向の曲率を求めることも可能である。」(同号証第二頁左欄第三二行ないし第四一行)と記載されていることが認められる。そして、乱視を有する眼球表面を測定する場合には、当然のこととして正面からみてほぼ楕円形の眼球の主子午線の方向と曲率を知ることが必要であるから、引用例のものは、眼球の主子午線上の曲率を直接測定しなくとも、主子午線上の曲率を知るために主子午線の近くの主子午線上の曲率に近似した曲率を測定しているので、引用例には、主子午線に沿つた直径の両端の二群の像を観察する方法が記載されているといつて誤りでない。更に、仮に、引用例の標点が主子午線に沿つているといえないとしても、後記(二)(1)において述べるように、乱視を有する角膜反射面の測定に長短軸合せをすること、すなわち、標点を回転させて主子午線の方向を見出すことは当然のことと考えられる。

したがつて、審決が引用例には、「カメラの光学系を通し像を反射する角膜の如き曲面の反射面の主子午線に沿つた直径の両端の少なくとも二つの別個の点によつて表わされる……二群の像を観察する」方法が記載されている旨認定したのは誤りであるとはいえない。

(二) 本願発明と引用例との相違点に関する判断の誤りについて

(1) 本願発明は、円標的を用いて角膜等反射面の像を測定するのに対し、引用例は、円周上に配置された点標的を用いてこれを測定するものであることは、当事者間に争いがない。

しかしながら、あらゆる測定において、その測定された数値に測定誤差が伴うことは自明の理であり、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、本願発明のように眼球角膜反射面の如き生体を測定する場合においては、時間の経過に従い、角膜自身の変形或いは角膜反射面に存在する涙液層の変化などによつて角膜反射面が変化するので、一層大きな測定誤差を生じ易いことが認められる。また、円周上の一つの測定位置において測定した数値と、その位置に隣接する測定位置において測定した数値の差が測定誤差に近いものとなつた場合は、各測定された数値から各測定位置間の真実の数値の差を知ることは不可能となり、更に円周上を連続して測定すれば、当然測定時間が長くなり、その結果測定誤差は一層大きなものとなることは、前述のとおりである。

そうすると、本願発明の如く円周上を連続して測定しても、測定によつて得られる有効な数値は、角膜等反射面の像の測定において許容される測定誤差の範囲を外れた間隔を置いて測定した位置から得たものとなり易いから、精度の高い測定をするには測定位置の数を制限せざるをえない。一方、引用例の点標的を用いる場合も、必要とする精度によつて標点の数が増加されるが、許容される測定誤差の範囲を外れないように標点の数の上限を定めるものであることは明らかであるから、本願発明の円標的を用いる場合と、引用例の点標的を用いる場合とについて、作用効果に格別の差異は見出し難い。

そして前掲乙第一号証の一ないし三によれば、大小各円標的を別個に測定し、かつ各測定で焦点合せ、中心合せ及び長短軸合せを行うことは、本件出願当時、光学測定に際して当然なされるべきステツプとして広く当業者に知られていたことが認められるから、引用例においても点標的を回転して主子午線の方向を見出す操作を行うことは当然のこととして首肯できる。

したがつて、引用例の二群の点標的を用いて角膜反射面の曲率を測定する方法と本願発明の二つの円標的を用いて角膜等反射面の主子午線を決定し、曲率の測定をする方法の差異は単なる設計変更程度の差異にすぎないから、審決が相違点<イ>について、「その差異は単なる設計変更の域を出るものとは認められない。」と判断したのは誤りであるとはいえない。

(2) 光学的計測において、十字線付焦点板を用いて視認測定することが周知であることは原告も認めるところであり、角膜等反射面の像を測定するについて、円標的を用いる点と点標的を用いる点に本質的な差異がないことは、前述のとおりである。そして、測定を行うについて、焦点合せその他の調整が必要な場合、調整が技術的に可能であれば、焦点合せその他の調整を行うことは当然のことであるので、角膜反射面の二群の像の写真測定に代え、十字線を有する望遠鏡を用い、かつ必要な調整を実施して二つの円標的を別個に計測することは慣用技術を単に適用したにすぎないというべきである。

したがつて、審決が相違点<ロ>について、「本願発明の測定にそのような十字線付焦点板を用いることは慣用技術を単に適用したにすぎないものと認められる。」と判断したのは誤りであるとはいえない。

(3) 成立に争いのない甲第一ないし第三号証、前掲甲第五号証によれば、引用例には、測定値をグラフによつて眼球表面の曲率半径に関係づけ、それにより眼球表面の曲率半径を求める方法が記載されているのに対し、本願明細書には、角膜反射面の像を測定して得られた数値から数学的に各輪帯における曲率半径を求める方法が記載されていることが認められる。

しかしながら、角膜反射面の像を測定して得られた数値から数学的に各輪帯における曲率半径を求める方法は、自然法則を利用した技術的思想とはいえないから特許発明の要旨とすることができないものであり、本願明細書にも特許請求の範囲に記載されていない事項であるから、本願明細書と引用例の発明の詳細な説明の記載に右のような相違点があるからといつて、相違点<ハ>についての審決の判断の当否を論ずる根拠とすることはできない。

また、原告主張の引用例が鋼球を用いて曲率半径のグラフを作成し、それに基づいて眼球表面の曲率半径を算出している点についても、曲率半径の算出方法は特許発明の要旨とすることができないものであり、かつ本願発明がこれを要旨としていないことは前述のとおりであるから、この点に関する原告の主張も採用することができない。

したがつて、審決が相違点<ハ>について、「この点の差異は曲面の単なる記述における差異にすぎない。」と判断したのは誤りであるとはいえない。

(三) 以上のとおりであるから、本願発明は当業者が必要に応じて引用例記載のものから容易に発明することができたものとした審決の判断は正当であり、審決には原告の主張するような違法はない。

3 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

少なくとも一方には像の大きさを測定するための目盛と記号が付いている、90°で交差する二本の線を有する十字線を光軸上に備えた望遠鏡を通して、像を反射する角膜の如き二次曲面或いはその主断面が円錐曲線である反射面の主子午線に沿つた直径の両端の少なくとも二つの別個の点によつて表わされる、一方は相対的に小さく他方は相対的に大きい二つの別個の円標的の、一方は相対的に小さく他方は相対的に大きい二つの像を観察することによつて、反射面の各主子午線における頂点曲率半径rと離心率eを決定する方法にして;

(一) 該二つの円標的を該望遠鏡の光軸に同心でかつこれに垂直に支持することと、

(二) 該反射面に形成された該二つの標的の内の小さい方の標的の像を該望遠鏡を通して観察し、この像に手動で焦点を合わせることと、

(三) 該反射面の位置をその光軸が該望遠鏡の光軸に整合するように調節し、これによつて該小さい方の標的の像を該十字線の交差点に中心合わせすることと、

(四) 該反射面に頂点非点収差がある場合のように、該小さい方の像が略楕円形である場合には、該望遠鏡をその光軸の回りに回転せしめて該十字線の交差線を略楕円形の該小さい方の像の長軸の方向と短軸の方向に合致せしめることと、

(五) 該二つの主子午線の各々について、該十字線上の該像に手動で鮮明に焦点を合わせて該像の大きさを測定するか、又は像二重化法によつて該像の大きさを測定することと、

(六) 該反射面に頂点非点収差がない場合のように、該小さい方の像が円形である場合には、該十字線上の該像に手動で鮮明に焦点を合わせて該像の大きさを測定するか、又は像二重化法によつて該像の大きさを測定することと、

(七) 該反射面に形成された該二つの標的の内の大きい方の標的の像を該望遠鏡を通して観察し、この像に手動で焦点を合わせることと、

(八) 該大きい方の像が略楕円形である場合には、該望遠鏡をその光軸の回りに回転せしめて該十字線の交差線を略楕円形の該大きい方の像の長軸の方向と短軸の方向に合致せしめることと、

(九) 該二つの主子午線の各々について、該十字線上の該像に手動で鮮明に焦点を合わせて該像の大きさを測定するか、又は像二重化法によつて該像の大きさを測定することと、

(一〇) 該大きい方の像が円形である場合には、該十字線上の該像の大きさを測定するか、又は像二重化法によつて該像の大きさを測定することと、

(一一) 該主子午線の各々について該小さい方の像及び該大きい方の像の大きさを該主子午線の各々における頂点曲率半径及び離心率に関係づけるか、又は該小さい方の像及び該大きい方の像の双方が円形である場合には該小さい方の像及び該大きい方の像の大きさを二次曲面である該反射面の頂点曲率半径及び離心率に関係づけることと、からなることを特徴とする方法。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

(一)

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

(二)

<省略>

<省略>

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